第十一回 比較優位の取り組み

 比較優位について概観しておく。比較優位とは、取引の最大化を目指す考え方で、故サムエルソン氏の弁護士の例が有名である。

 

 ある有能な弁護士は次の収入が得られる。また、タイピスト(事例が古いがご容赦を)としても有能である。

弁護収入:一般の平均収入の10倍

タイピスト収入:一般タイピストの2倍の生産性(一般平均収入の2倍)

命題:この弁護士がタイピストを雇うだろうか。

答え:雇う

理由:2倍の能力があるタイピストとしての収入が他のタイピストと比較して「絶対優位」にある。しかし、弁護収入と比較すると「比較劣位」にある。そうであれば、「比較優位」にある弁護業務に集中(時間を割く)して「比較劣位」にあるタイプ業務についてタイピストを雇った方が、収入が増える。タイピストも収入を得て、合計収入が増加する。

 

  • タイピストを雇わない場合(弁護業務に8割の時間を割くと仮定)

   弁護士の収入=10×8+2×2

         =84

   タイピストの収入=0

   合計84

  • タイピストを雇う場合(弁護業務に10割の時間を割くとする、タイプ業務量は同等)

   弁護士の収入=10×10

         =100(タイピストの支払賃金を差し引くと96)

   タイピストの収入=1×2×2(業務量に対して2倍の時間がかかる)

           =4

   合計104

タイピストを雇っても収入増となり、タイピストも収入が得られる。

これが貿易だと経済規模(CNP)の拡大となる。

 

 この考え方を売上における製品構成に適用すれば、製品単位粗利額の高い(比較優位)製品の構成比を高めることで粗利の向上(利益の増加)に繋がる。つまり、営業活動の優先順位を示している。売上高至上主義に陥ると売上高が向上しても利益が追随しない、効率の悪い経営となる。この製品単位粗利額であるが、会計処理(製造原価計算)ではないので正確に算出する必要はない。購買費や外注費など製品毎に費用を配賦することが難しければ、過去の経験則から一定の割合で配賦(実際の製造原価計算でも行っている)してもよい。ただし、あまり大きくずれないようにする必要はある。

 

 中小企業は、資金に乏しい。新型コロナの影響で資金繰り窮している企業も多い。金を使わず、頭と体を使うしかないのが現状である。直近3ヶ年の製造原価報告書を紐解けば、製品単位粗利額が算出できる。そこから始めよう。

第十回 売り上げから利益に

 前回、飲食業の時短対応について触れたが、販路について言及しなかったので、追記しておく。

 考えられる販路として、店舗及びネット販売が一般的であるが、テレワークの推奨による出勤抑制で店舗での販売は望めない。いっそのこと巣籠に近いスーパーを利用してはどうだろうか。総菜コーナー又は弁当コーナーに置いても面白い。スーパーにとっても集客の目玉(になるかはわからないが)とすることも一案であろう。スーパーへの営業活動が難しければ、ワゴン販売もあり得る。団地での集客はかなり見込めるとのことである。その場合、店舗は休業で、9割調理サービスオンリーになるが、業態変更で専念するのも選択肢である。

 

 本論に戻ろう。企業を評価する指標として売上高が使われるが、落とし穴があり、売上高向上で利益減少、最悪は赤字転落と言うのもある。企業は儲けてナンボの世界である。いかに利益を上げて存続を図るかが重要な命題となる。ただし、正確な利益計算を求めるものではない。取り組むべき優先順を決定するための判断基準とすればよい。重要なのは、場当たり的な対応での時間の浪費であろう。

 

 ここで、次の指標の算出を求めたい。

  • 製品毎粗利額=製品毎売上高-製品毎外部支払費用(部資材費+外注費)
  • 製品単位粗利額=製品毎粗利額/出荷額(月単位又は年単位)

 製品単位粗利額は、貢献粗利額となりこの総額が企業の総粗利額となる。製品単位粗利額は、最も効果的に粗利を稼ぐかを示す。これは、以前提示した比較優位の考え方に相当する。製品単位粗利額の高い製品は、利益を生み出す効率が高い製品群で、比較優位にある。この指標が低い製品は比較劣位にあることになる。

 この両者の順位が一致していれば問題ないが、そうはならないことが多いようである。以下の算出を確認してもらいたい。

  製品A:製品単位粗利額10、出荷量100

  製品B:製品単位粗利額15、出荷量10

  粗利額=製品A粗利額+製品B粗利額

     =10×100+15×10

     =1150

 ここで製品Aと製品Bの出荷量を逆にしてみる

  製品A:製品単位粗利額10、出荷量10

  製品B:製品単位粗利額15、出荷量100

  粗利額=製品A粗利額+製品B粗利額

     =10×10+15×100

     =1600

 製品の出荷量を変えるだけで粗利額が39%の向上することになる。単なる数字の遊びと考えてはならない。比較優位の製品群の比重を高めることでこれだけの効果が見込まれる。この考え方は、営業活動における優先順を示している。売上高を向上させるため比較劣位の製品群に営業活動を集中させ経営資源を無駄遣いしていることになる。また、営業資源に限らず、比較優位の製品群は、内部資源の活用比率が高く、経営資源の有効活用に繋がっている。

 

 次回は比較優位について考えたい。

第九回 仕切り直し

諸般の事情で最後の投稿から5カ月以上が経過している。

一度、仕切り直したい。

2度目の「緊急事態宣言」も発令され、経済状況は混沌の中にある。先が見えない状況下で闇雲にあがいても効少なく、害有となりかねない。下手に動いては、かえって傷口を広げかねない。とは言え、座して更なる悪化を傍観することもできない。製造業で考えてきたので、その流れを継承したいが、その前に思考トレーニングを行ってみよう。

「緊急事態宣言」では飲食業がターゲットとなり、甚大な影響がでている。活路として時間帯のシフト(昼夜から朝昼)、販売シフト(店舗提供からテイクアウト)などに取り組んでいる。ここで、別の視点での対応を考えてみる。プロセスシフトである。調理のプロセスは、「食材調達・仕込み・調理・盛り付け・提供」になるが、昨今の長期化した巣籠で食事の準備等で疲弊している人も多い。家庭の味も捨てがたいが、プロの味も忘れ難い。このプロの味を店舗で味わうから三密が騒がれ、制約となってしまう。店舗の雰囲気も重要であるが、ここは味に絞って対応を考えみよう。

調理プロセスの前工程である「食材調達・仕込み・調理」までは、三密とは無関係である。であれば、プロの料理人がこの前工程を担当し、提供すれば巣籠状態でもプロの味が堪能でき、家庭での調理の負担も軽減できる。9割調理サービスである。

この9割調理サービスであるが、最終的な加熱調理のみを残すことになる。やはり、温かい食事を取りたいものである。電子レンジもあるが、硬化することも考えられる。この加熱調理については、YouTubeで公開すれば分かり易く失敗も避けられる。プロの調理の最後に関与する楽しみもあっても良いのではないかと思う。

完成形であれば、通常のテイクアウトとなる。また、家庭に訪問するケータリングサービスもあるが、他の選択として追加しても良いと思う。通常、飲食業は午前中に仕込み、昼又は夜に提供となるが、9割調理サービスは家庭での加熱調理が残るため、午後の販売が中心となることが予想され、空き時間の有効活用となり時短営業の穴埋めが期待できる。衛生上の対策として真空パックとするのであれば、設備投資が必要になるが機器の選定については十分な検討が望まれる。

製造業でもそうであるが、プロセスを分解して最適化を考えることも重要である。緊急事態宣言下において様々な制約条件がある中で過去の常識にとらわれずに柔軟に取り組むことが重要である。

次回は、製造業に立ち戻って、大ぼら事業計画を考えてみたい。

第八回 自社の強み

第八回 自社の強み

工場シェアにおいてどのような製品を受託するかは、多くの場合、マッチングサービスを活用することになります。発注企業の発注条件と社内シーズが一致すると受注となります。一致も完全一致ではなく幅を持たせることが多いようです。このマッチングであるが、受注確保の観点では必要条件ですが、十分条件とは言い難いと言えます。

ここで、工場シェアの前に一度自社の強みを再確認してみます。通常、製造業では、強みを考える時、技術力や価格を挙げることが多いようです。以前にも触れましたがが、ここでは付加価値で考えてみます。手順として、現在の製品群の付加価値を算出します。会計上の付加価値となると、減価償却費、消耗品等の配賦など煩雑になるので、簡易付加価値を定義します。経営判断のための指標であり、正確性を求める必要はありません。

製品単位簡易付加価値額=製品売上高―製品単位材料費総額―製品単位外注費総額

製品1個当たり簡易付加価値額=製品単位簡易付加価値額/納品数

 

通常、付加価値総額の高い製品群に目が向きがちですが、成果の有効性を考えると以下の優先順位となります。

第一優先:製品1個当たり簡易付加価値額の高い製品

第二優先:製品単位簡易付加価値額の総額の高い製品

 

第一優先の製品が、第二優先の製品と一致すれば、簡単ですが現実はそうならない場合が多いようです。しかし、第一優先の製品は市場規模が小さく、需要が少ない場合もあり、総合的な判断も求められます。また、付加価値が高いことは値下げ幅に余裕があり、コストダウン要求の対象になりやすくなり、藪蛇ともなりかねないため、闇雲に活動することは避けたいものです。

 

①簡易付加価値額の算出

全製品を算出する必要はありません。売上高上位50%程度でも構いません。

 

②第一優先製品の受注拡大のための強みを設定

付加価値の高い製品の特長は何か?個別に考える必要があります。一般的に付加価値の高い製品は当然製品単価も高い。高くても必要であれば顧客は発注します。その必要性が製品価値となります。製造高難易度、高品質、短納期、安定供給など対応企業が限定される条件が課せられます。顧客が何を重視するのか見極め、どの視点で自社の強みを考えるかがポイントになります。

 

③既存顧客へのアプローチ

既存顧客であれば、顧客の要求内容は把握しやすいものです。ここで既存顧客の発注量が減少した場合、その理由は何か?需要減少であれば、対策の立てようがありません。この場合、見きり千両の選択肢もあり得るでしょう。そうでなければ、顧客要求にどこまで応えられるかを検討します。経営者の経営判断が求められる場面でもあります。

 

④新規顧客(同業他社)へのアプローチ

既存顧客の要求内容は、同業他社でも類似する場合がありヒントになります。しかし、これだけでは芸がありません。逆もまた真なり。既存顧客の要求内容を一度否定して考えてみます。アプローチのきっかけがつかめるかもしれません。

 

ファーストステップとして検討してみてはどうでしょうか。

第七回 工場シェアの活用法

第七回 工場シェアの活用法

昨今のコロナ禍において、工場シェアが加速しているようです。工場の余力を分かち合って稼働率を向上させて受注拡大に繋げようとする試みです。通常は、製造を委託する大手企業と稼働率を向上させたい企業とのマッチングを仲介するサービスを活用します。コロナ禍において全ての企業の業績が低迷したわけではありません。巣ごもり需要で好調な企業もあり、マッチングの重要性は高まっています。この工場シェアですが、製品や設備の特性のみのマッチングが主流となっていますが、前回指摘した「比較優位」の視点を持っていません。その必要性についての認識もないのかもしれませんが・・・。

 

工場シェアにおいて、国内工場の手薄な大手企業、工場シェアにより受託する企業、各々「国」と考えて国際貿易(グローバリゼーション)の基本である「比較優位説」を導入することも一案であると考えています。今回のコロナ禍において過度なグローバリゼーションが傷口を広げたとの指摘もありますが、「比較優位説」が世界経済の成長に重要な役割を果たしたこともまた事実です。経済が縮小しつつある現在、経済規模を拡大(成長)する「比較優位説」を自社のクローズド(閉じた)サプライチェーンに限定して効果を薄めるより、工場シェアによるにオープン(開いた)サプライチェーンを活用して、より経済規模の拡大を図り、一早くコロナ禍の濁流から抜け出すことが重要であると思います。

 

リモートワークの定着によりコロナ後はどのような変化を起きるか予想つかないとされていますが、あくまで働きから(手法)の範疇であり、生産性向上(働き方改革)の観点からの重要性が減ずることはないものの、あくまでコストの範囲に限定されているものと考えられます。拡大(成長)のエンジンとしてはやや心もとないのではないでしょうか。

 

ESG投資に代表されるように成長の足枷となる要素は増えています。手段を択ばない成長は許されない時代となっています。特に環境問題は、重要性は誰もが認めていますが、その取組みには常にコストの問題が付きまとっているのが現実です。環境の取組みについては、コストから投資へと移行すべきとの考え方も根強くあります。コストであれば削減の対象となり、投資であればリターンが求められるのが常です。しかし、多くの企業では、自社のサプライチェーンの位置付けから「環境=コスト」とならざるを得ないのが現状です。

 

稼ぐ手段として、いきなり飛躍しても無理があります。従って、喫緊の課題としては、既存の延長線上で繋ぐしかありません。ただ単に「出来ます」で工場シェアに取組んでも差別化は図れません。「比較優位」の考え方を取り入れて付加価値を高める方法を模索することを考えて見ることも重要です。

第六回 価格競争に打ち勝つコロナ返し

通常、価格競争は企業の体力を消耗させ共倒れを誘発しかねない悪手とされています。とは言え、「需要減」を通り越した「需要消失」の現状では、価格競争力の強化(生産性の向上)として企業の基礎体力を堅固なものとして生き残りを賭けるしかありません。

 

この生産性向上ですが、付加価値に着目して考えてみたい。本来は、利益額で考えたいところですが、固定費の有効活用の観点から、付加価値の最大化に取り組むことが重要と考えています。ここで計算を単純化するため減価償却費は考えません。「制約条件の理論(TOC)」でもスループット会計として取り扱われています。

 

まず、製造業について考えてみます。

製造業では、作業分析などから作業の無駄を削減することで生産性向上を目指していますが、部分最適に陥り全体最適とならず徒労に終わることも多いのが現状です。コロナ返し事業計画では、別の考え方を取り入れてみたいと考えています。

貿易において「比較優位」の考え方があります。経済学者、リカードの説で、国際貿易においては、国ごとに比較優位にある産業に注力することで貿易規模の拡大が図れるという基本理論です。

経済学者サムエルソンの女性弁護士の事例が有名で

「女性弁護士の弁護士報酬が標準賃金の10倍、タイピストとしても有能で一般タイピストの2倍の仕事をこなす。この女性弁護士はタイピストを雇うだろうか。」

答え:雇う。

「タイプ業務に割く時間を高報酬の弁護士業務を行えば、タイピストに賃金を払っても自分でタイプ業務を行うより高収入が得られる。また、タイピストも収入が得られ、全体としての経済規模が拡大される。」

 

これを製造設備に当てはめると、生産性の高い設備で高付加価値の生産比率を上げると、より利益が増えます。設備の生産性と製品の付加価値のマッチングを図ることで利益の向上が図れるのです。

これは、設備だけでなく熟練作業者にも当てはまります。熟練作業者に高付加価値の製造作業を集中させることで利益の向上が図ることが可能になるのです。

 

2020年06月13日

 

第五回 コロナ返し事業計画(大ぼら事業計画)

リモートワーク、便利ではあるが事前準備に時間がかかるものです。

Web会議は時間短縮が図れますが、事前の資料作成を手抜きすると効率が悪くなります。

影響で、ブログにも遠ざかってしまいました。

 

第五回 コロナ返し事業計画(大ぼら事業計画)

大ぼら事業計画、あまり名前の座りがよくありません。
コロナの影響で日本に限らず世界経済においてデフレが予想されています。
デフレ下では経済の縮小も取りざたされており、先行きは暗いものがあります。
ここでコロナを吹き飛ばすネーミングを考えてみました。

武道には相手の技を切り返す返し技があります。そこで思い起こすのが柔道の内股透かしです。シドニー五輪の決勝戦で篠原選手の内股透かしが認められず(審判が技を知らなかった?)金メダルを逃したいわくつきの技です。その時の解説者の絶叫を思い出します。コロナを返し技でねじ伏せよう。「コロナ透かし事業計画」としたいが、「透かし」の語呂が余りよくありません。ストレートに「コロナ返し事業計画」にしておきます。

まず、身近な視点1から始ます。社員全体を巻き込むには身近な取組みの方が導入しやすいでしょう。本来は、突飛な視点(本丸)から入りたいところですが、時間との勝負、悠長なことは言っていられません。突飛な視点では社員もついてこないでしょう。

視点1は、現状の延長線上で考えますが、既存顧客にしろ新規顧客にしろ、何らかの売りが必要です。デフレが予想されるのであれば、価格(コスト競争力)しかありません。価格競争に巻き込まれても生き残る価格競争力をどう得るのか、基礎体力を強化するためにも取り組みたいものです。

製造業であれば、原価構成上、最も高い比率に取り組むのが常套手段です。
1) 原材料
仕入価格の削減が考えられるが、現実的ではありません。効果も薄い。もっと廉価な代替品への転換が最も効果的です。ただし。最も困難ではあります。
2) 外注費
内外作区分において、固定費回収の観点から内作重視となりますが、長期的な視点で捉える必要があります。外注とのパートナーシップも重要です。無駄な外作を排除することが先決です。
3) 社内工数
生産性向上に直結するポイントです。この際、全体最適を無視すると無駄な改善を行うことになります。A,B,Cの3工程がシリーズにあるとして各工程の同期をとらないと意味がありません。B工程のみを改善すると、C工程の前に仕掛品が滞留し、全体としての生産性に変化がない事も考えられます。A,B,Cの3工程のうち制約条件となる工程の改善を行って初めで全体の生産性向上が見込めます。一時期、着目された「TOC(制約条件の理論)」は有効です。合わせて、間接業務の生産性向上にも取り組みたいものです。

小売業であれば、商品計画となりますが既存の商品の選定・仕入では今後生き残るのは難しいかもしれません。SPA(製造小売業)なる考え方があります。既存の商品を仕入れるだけでなく、企画・提案して製造を委託します。ユニクロヒートテックなどが代表例です。企画・提案であれば資金力は必要ありません。アイディア勝負です(非常に難しいが)。このアイディア出しについて、次回以降、考えていきます。