第十五回 スキル採用

最近、新卒の採用基準として学歴採用では無くスキル採用とする企業が増加しています。

 

前回の内容から若干脱線しますが、このスキル採用が、ノウハウの承継に関する多くの示唆を含んでいるように思えますので、検討したいと思います。

 

企業は、経営資源である人材を求めます。正確には人材の持つスキルを求めます。

スキルの獲得として

  • 育成
  • 調達

が考えられます。

 

従来の企業は、新卒に対して学歴(基本的な素養)をベースに企業内で育成して事業活動を展開することが基本でした。企業に対する忠誠を求め「社畜」なる言葉も生まれました。「会社の常識は社会の非常識」と言われる所以です。このことが、他社では通用しない多くの社内専用スキルを生み出し、転職を阻み、労働市場流動性を阻害したことはよく知られています。

 

スキル採用は、事業活動に必要なスキルの保有者を採用し、即戦力を意図しています。育成という時間と費用を省いて効率化を狙っています。

 

学歴重視からスキル重視に移行した要因として、企業が求める専門教育に大学教育が追い付いていないことにあると言われています。特にIT系はスキルの新陳代謝が激しく、次から次へと新技術が導入され、対応に四苦八苦しているのが現状です。

 

大学関係者からは、「大学は高等教育の場であって職業訓練校ではない」との反論もでそうですが、大学教育の陳腐化(社会情勢との乖離)にも問題がありそうです。

 

次に、スキルの調達ですが、かつて話題になった「持つ経営」か「持たざる経営」かの選択を思い起こします。

 

バブル以前の日本の大企業の強みは、社内に様々な経営資源保有し、様々な事業を展開することでリスク分散を図っていたことでした。しかし、情報化の進展(重厚長大から軽薄短小への移行)では、保有する経営資産の陳腐化が急速に進み、持つことのリスクが増大する結果となりました。巨大な恐竜が小さな哺乳類にとって代わられたように、新たなIT産業に飲み込まれて弱体化していきました。この結果、「持たざる経営」が標榜され、必要な資源は調達すれば良いとの考えが広まり、内部リソース(コア・コンピタンスに集約)から外部リソースへ比重を移す経営(企業)が増加しました。財務的に言えば、固定費から変動費への移行になります。

 

スキルについても、調達となれば、新技術の対応では効果的ですが、新しいスキルもすぐに陳腐化して旧式となり、その人材は不要となってしまいます。最近の米国のIT産業における大規模なレイオフは、業績悪化による人員削減と言われていますが、新たな事業転換にともなう陳腐化人材の整理とも言えます。しかし、新たに起業した組織群がレイオフされたの人材の受け皿となり、情報産業の裾野を広げて経済発展に貢献していることも事実です。

 

インキュベータ(孵卵器)が脆弱な日本では、労働市場流動性が乏しい(昨今、第2新卒など大きく変化し、IT系は引く手あまたですが)ためセーフィティネットが機能せず、レイオフも簡単にできない労働市場環境では、調達に頼って育成機能を弱める(陳腐化人材の増加)ことのリスクを認識する必要があります。リスキリングも陳腐化人材の活用対策と言えるでしょう。

 

スキル採用の対象となるスキルは、アナログ的(連続)ではなくデジタル的(不連続)である特徴があります。もちろん、デジタル的なスキルも基礎的なベースを前提とした専門性の高いスキルではあります。

 

ノウハウの承継は、初等教育から徐々に難易度を上げて高等教育に至るアナログ的なプロセスを経ていきます。徒弟制度による承継も同様です。従って、ノウハウの承継を考えるとき、スキルの特性(アナログ的スキル又はデジタル的スキル)を見極めることも重要です。

 

この点を踏まえながら、ノウハウの承継について考えていきます。

 

2023年04月22日